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秘 密 |

25
近く、新都には近代に比べて負けぬほどの大規模な水利施設が配置されることになる。
都中に張り巡らされた強固な水路は上下水道の機能も完備され、地下水路としてひかれたカレーズは総延長が数十キロにも及び、都に近いカレーズにはアーケード街かとも思われるほどの広さの商店街や貯蔵庫も併設装備されたという。
そして・・・
黄金の王妃の住まう奥宮殿の庭には、水面から絶えず空へと何本もの水柱を上げ続ける不思議な泉が出来上がっていた。
そのしぶきのきらめき落ちる先には、王妃が愛した青い睡蓮が一年中咲き誇っていたという。
「すごい・・・・・!」
「どうだ?」
「・・・・・・・メンフィス、これ・・・」
「気に入ったか?」
「・・・・・覚えてくれていたの?」
初めてその出来上がった庭を目にしたキャロルはその目を大きく見開いて驚いた。
キャロルの提案から実現した噴水に・・ではなく、
その池一面に咲き誇る・・・水面に揺れる青い可憐な睡蓮に。
「『蒼の雫』と言ったか・・・・。こうしてみると確かにそなたの為のような花だな。」
確かに・・・だいぶ以前地方の視察に行った時にこの花が『好きだ』 と言った覚えはある。
(なんて綺麗!わたしは初めて見たわ。ナイルにはこんな青い睡蓮もあるのね・・・・)
(ならば・・そなたが気に入ったならば・・・・庭中に咲かせてやろう。)
(え?! 庭中? そ、そんなにはいいわよ。少しあれば・・・)
(・・・・なにをつまらぬことを申しておるのだ・・・そなたのためならばどんな花でも咲かせてやるぞ)
ただの野草にすぎない花だったので、王宮にわざわざ植えるような品種ではないとも聞いていた。
実際、あまり根つくものでもないらしい。
それが・・・・虹をつくりながらしぶきをあげる可憐な噴水の池に優雅に咲き誇っていたのだ。
明るいライトブルーの目の覚めるような青い花の池
可愛らしい花びらがふわふわと水面に揺れていて、思わずキャロルは目を細めて嬉しげに笑みをこぼした。
「すごくかわいい♪・・・素敵だわ! ありがとうメンフィス。 本当にうれしいわ。」
頬をほころばせて泉にかけより、嬉しそうにメンフィスに振り返った。
清涼な水しぶきにきらめく泉と青い睡蓮を背に微笑む妃のその光景は・・まさに宝玉のようだ・・・・
「わざわざ集めて植えてくれたの?大変だったんじゃない?」
「それほどでもないが・・・・・いや・・・そなたに見つからぬようにするのには確かに苦労したな。」
「まぁ!だからいじわるして噴水の池も出来上がるまで見せてくれなかったのね。」
めっと眉をつりあげてもそれは一瞬のこと。
すぐに、はじけんばかりの笑みをこぼしメンフィスに手をのばした。
「(くすっ)でも本当にありがとう・・・メンフィス♪ ねぇ、じゃあ完成のお祝いで・・昼食はここでとりましょうよ。」
「うむ。そうだな。・・・ナフテラ、昼餉はこの東屋へ運ばせよ。」
「はい。かしこまりました。」
「あ、そうだわ♪ あれも一緒にお願いできる。」
「・・何でございますか?これは?」
キャロルは急いで部屋の入り口近くに置いていたかごを持ってきてナフテラに手渡した。
危険な予感を感じつつ・・・・恐る恐るナフテラがかごのふたを持ち上げてみる。
「あの・・・・・キャロル様・・・(汗)」
やたらと硬そうな形状の黒い棒状物体が並んで・・・・
「胡麻パンよ♪今朝ね朝一番で向こうの研究室で練習に焼いてきたの♪ちょっと硬めになっちゃったけどハードブレッドって思えばいいかなって。食べるときにはちょっとあったかい方がいいと思うから少しかまどで温めなおしてきてくれる?」
「お昼に・・・・お召し上がりになるので?」
「そうよ♪」
ナフテラが聞いたのはファラオにであったつもりだったのだが・・・・
「よい。・・・・そのようにいたせ。」
「・・は、はい。 畏まりました。」
キャロルの即答に有無を言わせず押し切られ、ナフテラは控えめに王に略礼をしてかごを抱えて下がっていった。
相変わらずというか・・・
妃のこの腕前だけは何故か「進歩」という言葉を知らないらしい。
あの専用のかまどを得てからというもの、嬉しげに「料理」を作ってはかかえて持って帰ってくるようになったのだが・・・・。
「料理は愛情だもの♪」
「味は二の次ということか・・・・」
「もう、そんなこと言ったら作ってあげないわよ。」
「・・・・・」
「・・なによその『間』・・どうしてそこで返事がないのよ?『それは困る』って言ってくれないの?!」
「いや・・・・正直・・・・なんと申せばよいかわからなかっただけだ。」
「・・・ひど〜い!! ・・・・・・もういいわよ。メンフィスには食べさせてあげないから!」
「それは困る。わたしは『そなた』を食べるのが好きなのだぞ。」
「…は?」
「だから、『そなた』を食べるのが何より好きだと申しておる。」
「! な・・・な・・・・なっっ!!わあっ!!」
「うむ。美味だな。この肌触りといい、舌触りいといい・・・このうえない極上品ぞ。」
「きゃぁああぁぁあああっっ!」
互いを思いあい・・・・愛する人のためにいつも何かをしていきたい。
・・・時に行き違いで力いっぱい空振りもしてしまうけれど
それでも・・・
その思いの『もと』がわかっていれば、どんなことでも大丈夫。乗り越えていける。
ずっと二人で笑っていられますように。
一緒に歩いていけますように。
下手でも間違っても、転んでも怪我をしても・・・・・決して目をそらさない。
ずっと。
Fin.
長らくのお付き合いをありがとうございました。 PLEIADES拝 
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