王家の谷へ |
Next |
Second Night
T
「キャロルは酒が飲めぬ・・・わたしが・・」
「あ、メンフィス・・」
「これはこれは・・・なんと大切に・・。ま・・・無理もない。黄金の姫君だ。わっはははは。お羨ましい。」
メンフィスとキャロルの婚儀の行われた次の日、バビロニアのラガシュ王と女王アイシスの婚約が決まり、エジプト王宮は今2重の祝いにわいていた。
両王家にとって喜ばしい吉事に、エジプトを代表して王妃となったばかりのキャロルがバビロニア王の婚儀へ出席をすることとなった。
「姫、バビロニアへおいでの日をお待ちしておりますぞ。」
「は、はいっ。ラガシュ王。」
ニコニコとふたつ返事で対応するキャロルのはしゃいだ様子に、メンフィスの機嫌は急降下するばかり。
キャロルのかわりにと手にした杯を一気に飲み干したあと、大きくメンフィスは息をつく。
「くっそぅ・・・・・・」
「メンフィス?」
「そなたをどこへも行かせたくはなかったんだっ!」
「きゃぁっ!」
ラガシュ王が席を離れたとたん、メンフィスは不機嫌さをあらわにしてキャロルに小さく悪態をついた。
そのままぎりっと無理やり後ろからキャロルを引き寄せ舌打ちをする。
「め、メンフィスったら横暴だわっっ 自分が決めたくせに〜っ」
「うるさいっ!」
(姉上のたっての希望ゆえだ・・・・そうでなければ決してそなたを行かせはせぬに・・・・!!!)
そのまま胸のなかに閉じ込めて、動けないようにどんどん締め付けてゆく―――
ほんのつい先ほどに腕に抱いたばかりの初々しい愛しい妃を、また長らく手放さねばならなくなるなど、外交のなりゆきとはいえメンフィスには想像だにしない事だった――――。
片時たりとも側から離したくはないものを・・・
しかも・・・バビロニアはあまりに遠すぎる―――!!
(それなのにこやつめ・・!! これほどまでに浮かれおって!!許せぬっ!)
「・・・ねぇ、ちょっと・・メンフィス、苦しい」
「・・・・・・・・・・」
「メンフィスったら・・お願い・・少し腕をゆるめて」
「―――だめだ。」
後ろからふいに触れてくるある感触にキャロルは大いに狼狽した。
「メンフィス・・・あ・・の・・・・・そんな・・ここでは・・・・・み、みんなが・・」
「気にするな。そなたは既にわたしの妃・・・なにを今更うろたえる」
髪に・・そして耳のうしろ・・首筋にKISSの雨を降らせるメンフィス。
それはみんな・・・昨日あかされたばかりのキャロルの弱点
抵抗する力もそぎ落とされ、平静さを手放さないように必至にがまんを続けるしかない。
「・・・・っっ!!!」
びくっと肩をこわばらせすっかり硬直してしまってしまっている
触れるたびに小さく震えるキャロルがたまらなく愛しい。
「お願い・・メンフィスっ や・・めて」
キャロルはか細く懇願する。
宴席の熱気は酔いをさらに濃厚にさせてゆく。
遠巻きながら、このファラオの熱愛の様子は既に周囲の注目の的だった。
長い長い間の思いが昨夜ようやく叶ったファラオ。
その愛の全てを一身に受ける黄金の王妃・・・。
その睦まじさ・甘い抱擁は誰もが目で追わずにはいられない。
男達は酒を含む目じりの端に―――
女達はおしゃべりの隙間に頬を染めて―――
あの激しい気性のファラオにどんな風にキャロルは愛されるのか・・・
誰しも一度はそんな妄想を通して二人を眺め見てしまう。
そんな視線をキャロルは今朝からずっと敏感に感じ取っていた。
「・・・っっいやっ・・・メンフィスっ!!」
「・・・・ならば場所をかえよう。」
「えっ?」
「言いたい者には言わせておけば良いのだ。」
さらに頬に口付け、まるで皆に見せつけるかのようにキャロルを抱き上げる。
「きゃぁっっ メンフィス!!!」
「皆の者、今宵も心ゆくまで楽しむがよい。わたしもこれから極上の美酒に酔うとしよう。」
そう言って、目を見張るキャロルに強引に唇を重ねた。
歓呼のざわめきが広間中にどよめきわきあがる。
臣下たちは次々にファラオ夫妻の睦まじさへ多くの声を投げかけた。
祝い酒に酔った勢いもあって、われ先にと赤面な賛辞があちこち飛び交う。
「二日酔いでも、三日酔いでもかまいませんぞ!ファラオ!」
「メンフィス様!どうぞごゆっくり!!」
「おお。邪魔をする者は重罪ぞ!心せよ」
「ははーっっ 心得ましてございまする!!」
「あっはっははははは・・」
メンフィスは高らかに透き通る笑い声をあげて臣下たちの軽口に答えた。
王家の谷へ |
Next |
© PLEIADES PALACE