王家の谷へ
愛しき仕草
ころん・・・・
ぱた・・・・・
「・・・・・」
すぅ・・・・・
くっ
かすかにこぼれ落ちる微量な忍び笑い
端正な口元に、どうしたものかと行き場を迷う指先が添えられた。
目前には・・幅広の白い石のベンチの上で、ころりところげているキャロルがいた。
・・・・しかも熟睡
涼しい夜風に気持ちよさげにときおり寝返るのを見つけ、最初はあきれて、そして揺り起こそうと手をのばし、だがその時、またくるりと仰向いた彼女の安らいだ顔に、思わず見惚れてしまったのだった。
いつの間にか腰まで豊かに伸びた黄金の髪
まるで金色の波の中にたゆたっているかのような寝姿
月夜に浮かぶ白い肌
ひやりと冷気をはこぶ微風がさやさやと頬にかかる髪をなぶっている
水辺の方からは涼しげな虫の音
「ん・・・・」
どんな夢を見ているのか
「・・・このように幸せそうな顔をして・・わたしのことを思っていなければ許さぬぞ」
触れるか触れないかほどの距離でそろりと髪をなでてやると、気持ちがよいのか、いよいよ嬉しそうに頬に笑みを浮かべる。
ふぅ・・と優しい吐息が彼女の唇からこぼれて、そして・・えもいわれぬ愛しい声が耳に聞こえた。
「・・・・・・メンフィス・・」
「!」
つい・・と、かすかにキャロルの指がのびる
無意識に側にあるはずの何かを探すかのようなしぐさ
「メンフィ・・・・」
「・・・・・・・・・・キャロル」
その招きにどうして応えずにいられようか
わたしを呼ぶその白き手に
のばされた指先を迎える手は
限りなく優しげに彼女の繊手を包み込んだ。
すやすやと眠る愛しいキャロル
メンフィスは片膝をついたまま、そのそばで彼女の姿に魅入っていた
添えてやった手は本当に触れている程度の力しか入れていない。
ぴくん・・
キャロルの指はやはり時折かすかにその傍の存在を確かめるように動く。
離したくないかのように・・
かすかに己の指を握り締めようとするのだ
「キャロル・・・」
ほんの僅かな指先の動きがあるたびに、たまらない愛しさが募っていく
それは、キャロルの自分に対する思いの表れに他ならないのだから
ふっ・・・
(今すぐにでも強く抱きしめてやりたいが・・この指先も捨てがたいものよ)
静かな星月夜のもと
眠れる女神の娘の手の甲に、すこし困った風な微笑をそえて、愛を込めた王の口付けが落とされた。
Fin.
王家の谷へ
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