王家の谷へ

特効薬



ズキズキズキ・・・
頭が締め付けられるように痛い・・
ああ・・もう・・どうなってるの?

「姫様?姫様?」

ばっとテティの顔面に開かれたキャロルの手。
手のひらだけをずいっとかざされ、テティは黙らせられる。

眉間によせられた苦痛を心配そうにテティは横から覗いて、次の瞬間にはすっとんで医師を呼びに走り出た。

「た、大変!大変!!」
「何事です?テティ?」
「ああ、ナフテラさま! 姫様がお悩みで!!すぐお医者様をお呼びしてまいります!」
「何っ!キャロルがどうした?」
「あ、ファラオ!!」

押しとめる間もなく、キャロルの部屋へメンフィスは駆け込んだ。

「キャロル!!!」
「〜〜〜〜〜っっ!!!!!!!」
「どうした?キャロルっっ!!顔を見せよ!!キャロルっキャロルっ!!」
「う〜〜〜〜っっ!!!嫌っっ」
「! キャロル!」

抱き寄せても硬直しているキャロルの様子にメンフィスは真っ青になってさらに大声でキャロルの名を呼び続ける。
そうこうしているうちに、侍医が慌しく訪れた。

「姫君のご容態は・・・」

バタバタバタバタ・・・!!
ガサガサ
ガヤガヤ

薬の用意だ、シーツだ湯だと、人の出入りが増えればどんなに静かに行動しても、あらゆる音が部屋に響く。
増幅され続ける騒音。足音。

ズキズキ
ガンガン
ドクドク・・


「あ〜っもう!うるさ〜いっっ!! 黙って!!」
「なっ・・・?!?!(一同仰天!!)」

ばふっ・・

クッションごと頭にかぶせ、耳を塞ぐ。

「頭が痛いの・・・お願い!静かにして・・響く・・・っっ」




・・・・・・・・・・
ズキズキズキ・・・
頭がまるで鉄の輪にギリギリと締め付けられるよう・・

熱はないけど・・・目をあけて物を見るのも辛い

「お目の使いすぎでしょうな。首の筋もこんなにはっておられる。夜も灯明をつけての長時間の読書はいけません。しかも昼間からずっとではお疲れにならないはずはございません。しばらくゆっくり気分を落ち着かせてお休み下さい。それから、夜間のご勉学はしばらくお控えを。よろしいですね。」
「確かにそうね・・・・・ああ、少し楽になったわありがとう。」

ゆっくり目の周りをマッサージされ、暖かく蒸した布を額から目を覆うようにのせられた。
じんわりとこめかみあたりから力が抜けてゆく。

「気分をゆったりとなさることがまず第一。こちらに香のよい香料を焚いておきます。・・・とにかく今宵は御気を楽に。」
「・・・・・はい。」






「まったく・・・驚かせおって。」
「だって・・本当に痛くて・・今だって・・・」
「・・・・・・・まだひどいのか?」
「・・・さっきほどじゃ・・ないけど。・・ものを見ようとするとやっぱり少し・・・・・」

暖かさが抜けた覆い布を目元からはずし、ふぅっと息をはく。

「眼精疲労ね。目の奥がズキズキして・・。やっぱりもうおとなしく休むわ。」
「うむ・・。」

目をとじたままでいると、そっと大きな手のひらが額をなぞる。
医師の手当てとは全く違う、ただそっと優しく押し当てられているだけのことなのだけど・・
なんだろう・・とても・・気持ちいい・・・・

しばらくして、ふっとその手がはなれた。

「メンフィス?」
クシャリと髪をなぜた後、足音が遠ざかろうとした。
静かに休ませる為に、部屋を別にしようとしたのだろう。
「ねぇ・・」
「ん?」
「・・・ここに・・・・いて欲しいんだけど・・・・・・・」
「・・・」
「気を楽に・・っていわれたでしょう? わたし・・・・・」

―――あなたが隣にいてくれた方が・・・落ち着くの・・・



暖かい体が隣に静かに横たわる。
おでこをその胸元にあてていると、さっきの彼の手のひらと同じようにあたたかくてふっと力が抜ける。

「キャロル」
「・・・ごめんなさい・・頭に響くからお願い・・今日は黙ってて。このまま・・・」

このままでいると、とても気持ちがいいの・・・・
何もいわないで。何もいわないでいてもわかるから。
あなたが心配してくれていること・・・愛してくれていること・・・。


さっきは怒鳴ってごめんなさい
明日はきっと・・・・・元気になっているわ・・・・

貴方にキスして・・笑って・・抱きしめて・・

今は何も答えられないけれど

――― きっと・・・・明日には元気になるから



貴方がこうして側にいていくれれば・・きっとすぐに良くなるわ・・

だってこんなに・・・気分が楽になっていくもの



いつか・・貴方がわたしを自分の治療薬だといってくれたように
わたしの治療薬もあなただけなのね・・








Fin.


            王家の谷へ 

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