王家の谷へ
Presented by みんみんまま様
午 睡
〜 once upon a time 〜
ゆらゆらと・・・
ゆら・・ゆら・・・・
あぁ、風が頬をくすぐる。髪を玩びながら―――
爪先にも涼やかな風が・・・
うっとりする揺らぎをたおやかな全身で感じていた
庭にある緑なすオークの樹
その梢につく籐の籠ブランコ
穏やかな日差しの中、ゆったり影を映しつつ揺れている
「なぁ、やっぱりやめないか?」
「どぉして?」
「危ないだろう?もしお前が落ちたら・・・」
「大丈夫よ!!平気だもん!この間もその枝から落っこちそうなこともあったけど・・・これはこんな下だもの。怪我なんかしないわ。ねぇ、お願い!」
ため息をつきつつ彼は息子とともに枝にロープを縛っていた。
せめてこのお転婆娘が落とされないよう祈りを込めながら。
妻によく似たこの愛娘のおねだりにはついつい負けてしまう。
二人の息子にはけして許さない我侭にも・・・あれらは一体父親のこんな姿をどう思っているのだろうか?
あぁ、それにしても自分のような素人が作るのではなく、もっといい品を与えてやりたいのに。
溜息が濃くなってゆく―――
「あのね、ブランコが欲しいの。公園にあるようなのじゃなくて・・・ママに読んでもらった絵本にあるような籠ブランコ!お庭にあったら素敵じゃない?」
「じゃぁ、こんど業者に頼むかな」
「ううん。パパに作って欲しいの。だってこのお話、この子のパパが作ってくれたんだって!ねぇ、パパにもできるわよねぇ」
ふふっ。そうだったわ・・・あの時、パパに駄々をこねて・・・
あぁ、でも気持ちいい。お日様がほっこりして背中にまで温もりを感じちゃう。
ささやく木陰でこうしていると揺られていると、まるでパパに抱かれているみたい。
んんっ?抱かれている???
そろそろと青い瞳を見開く。―――とそこには自分と違う漆黒の人が居た。
「うっっきゃぁぁぁ〜〜なにこれ、なにこれ、なにこれ〜!!どおして〜〜」
「ずいぶんだな・・・」
アメリカの自宅でブランコに乗っていたはずが彼の人の膝に乗せられて抱かれていた。
そうだった。ここはアメリカじゃない。しかも現代でもなく古代エジプトに私は今・・・
あんなに甘やかしてくれたパパは、もういないんだ――――。兄も・・・ママも。
自分を守ってくれる人はここにはいない・・
数刻前、ファラオは最近捉えてきた娘を呼ぶ。
「申し訳ありませぬ。ただいま探しておりますゆえ・・・」
低頭する女官長。
「なにぃ!すぐに見つけよ。まさかまたあの奴隷の処に・・・許さぬぞ!!」
娘を捜索させながら自らもじっとはしておれず庭を巡る―――
只人ならば賞賛を得られるだろう丹精された庭木も今は彼の瞳には何の意味も成さない。
その時、眦になにか反射するものを見つけ―――膝を突き枝をくぐる。
「いおったわ・・まったくこのようなところに・・・」
そして―――
「もぅっ!離してよ!!!」
「もうそっと、このままで居よ。命令だ――――」
Fin.
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