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王兄 ロディ・リード

【兄弟】




「率直なところ僕も王様に聞いてみたかったのだけど・・・・」

カタンと飲み干したワインの杯を卓上に置いて、ロディは改めてメンフィスを見た。


「ところでさ、・・・・・王様は本当に『アレ』が弟だと思ってた?」
「・・・・・・」
「顔はもちろん聞くところによると年齢さえ年上に見えたそうだね。いくら異母兄弟とはいえそんなことありえるのかな?」

20代半ばを越えても尚、青年のような美丈夫であるファラオ
ただ美しいだけでなく精悍な王者としての貫禄・知略も年々増して、そこにあるだけで大きな自信を感じるほどだ。
      
(彼も義弟なら、ネバメンも義弟・・・・・ って、そんなのサギもいいところだ。僕的にはネバメンの兄をやれなんて完全に悪夢か拷問だって。。)

「・・・父の遺品を持っていたことだけは・・・覆すことができぬでな。」

僅かによぎる沈黙
メンフィスの無言の視線

「・・・・・・ふーん。」

その瞳の奥をのぞきこむロディ
シン・・とした空気の中にメンフィスの心の温度を感じてロディはふっと微笑んだ。
それは凍てつく極寒の空気に漂う、非常に不自然な・・『春の天使』のような微笑み・・・

「・・・・・・・・・・」

「・・・なるほどね。・・・王様『も』一応他にも色々調べたけど『偽弟』という完全な証拠の判を押すことが出来なかったわけだ」

「・・・・・・・」

メンフィスは何も答えなかった。
何も答えなかったから、ロディの問いに否定も肯定もしなかった。

本心では兄弟など真っ赤な嘘だということはメンフィスはネバメンに会った当時から看破していた。
だが父王ネフェルマアトの遺品・遺言を悪用したという証拠がない以上、「先王の子」であるという事は公に覆せない。
王の系譜はこの国では神の系譜だ。
どんな事情であれ証拠が本物である限り絶対に穢すことはできない。
よほどのことでないかぎり・・・・また世継ぎがいない現状では・・メンフィスの手でネバメンに実刑を下すことはできなかった。
記録に書かれた経緯としてメンフィスに弟か妹になる血筋は確かにあったはずであろうが、それがネバメンにすりかえられたという事だけが口惜しくも闇に塗りつぶされどうしても証明できなかった為に。

「それじゃ、よかったんじゃない? ちょっと不謹慎かもしれないけど。」
「・・・・・・・・」
「『病気』で亡くなったなら王様側には何の不都合もない。形だけでも立派な葬儀さえ出せば体面も立つし。」
「・・・・・暗殺の可能性を持ち出す輩を完全に排除できればな。」
「出来るようにするのが王様の腕の見せ所だろ。」
「ほう。。」

初めて面白そうにメンフィスは笑った。
ロディは少し伸びをして両腕を頭の後ろに組み、のんびり椅子の背もたれにもたれる。
あくび交じりな呑気な口調で続けた。

「ネバメン擁立派の貴族たちは王弟殿下が『暗殺された』と持って行きたいだろうね。できればメンフィス王が裏で糸を引いている・・って。・・・・そしたら・・次代の王様候補殺しに関わったという事で堂々と王様を非難することもできる。で、めでたく追い落とせれば、そのアトに御しやすそうなのんびりノホホン系の僕を傀儡王にってね。・・・ま、あんまり事が急すぎて今頃はそれどころじゃないか。このあいだ王様が彼らに突きつけた収支のつじつまあわせの方で必死だろうし。」
「あやつらに逃げ道などつくってはやらぬ。」
「散々公金の裏金やら横領やらをしてたからねぇ。ネバメン殿下っていう不可侵のバリケードがないと不正駄々漏れでそりゃ大変だろうね。」
「自業自得だ。・・・既に専属の検察官を派遣している。奴らに改心がなければ、即、締め上げるだけのこと。」
「・・・なんだ、ずるいな。とっくにやる気満々だったんじゃないか。ネバメン殿下に『何か』あったらすぐ行動に移せるように事前に準備してたんだ。・・かわいそうに、こんなに洗い出し包囲網万全だったんじゃ敵さんホント逃げも隠れもできないだろうね(くすっ)。・・少しもったいなかったかな・・あの人たちが捕まっちゃう前にもうちょっともらえる物もらっとけばよかった。」
「・・そなたこそ。・・・そうなるだろうことをほぼ予測していたはずだ。こちらの取り押さえが早々に動いたのを見極めたゆえテーベへ参る気になったのであろう。・・全部分かっていながら申しておろうが。・・・・・タヌキめ。」
「う〜ん、どうだろう。 正直 僕は “どっちでもいい派” だからね。・・まぁ確かに王様が『仕損じてたら』ここには来ていなかったかな(微笑)。とりあえず速攻の攻撃はお見事と申し上げるよ。実際いいタイミングだったと思うし。」

「・・・では・・・・・・・・ヤツに 『とどめをさした輩』 に礼を言うべきか。」

「おや、暗殺じゃなくて 『病気』 で亡くなったんだろう?」

「ふん・・・・・・・・・そうだったな。」

どこまでも優しげに穏かな微笑みを返すロディにメンフィスは口角を少しだけ上げた。






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