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忠犬
【次兄+ウナス+・・・王様】




「ファラオがお好きですよね?」
「え?!」
「ですから・・・・・、ロディ様は・・・ファラオの事はお嫌いではないんですよね?」
「・・・・・・」


まっすぐな純真な目で唐突に聞かれてめんくらう。
確か・・・・キャロルのお付武官だったな、彼。

「親戚に好きも嫌いもないですよ。・・・いわゆる 『義兄弟』 なわけだしね。」

ウナス隊長・・・・キャロルに常時ついてはいるけど、「王命」の任務でがんばっています!という雰囲気がすごく強い印象があった人だ。
うん、そうだ。ころころ走り回ってまさにファラオの忠犬だなぁとしみじみ思った人だ。
王様の指示が飛ぶと嬉しくて仕方がないような様子に、ちょっと笑ってしまったんだが。
さっきだって、王様から名前を呼ばれただけで振ってる尻尾が見えそうだった。

キャロルの事では随分昔からお世話になっているともきいていたので、たまたまというか通りがかりで会釈してみたら、凄く神妙な顔をして・・・(そう、意を決してっていうような感じで)、ぐっと姿勢を正して僕に話しかけてきたんだ。


「でも・・・・ロディさまは・・・メンフィス様がキャロル様を王妃にされたこと・・・・本当は怒っていらっしゃいませんか?」
「・・・・怒ってる?」
「・・あの・・・・・・キャロル様は・・・ずっと昔から兄君様を慕っておいででしたし・・・・・・ファラオがキャロル様を王妃にお迎えるまでの経緯も・・あまり兄君様方にはお認めになりがたいものだったでしょうし・・・・僕にもキャロル様のお話を伺っていただけでもきっととても仲の良いご兄妹でいらっしゃったんだろうって分かりました。・・・・だから・・・・・」
「だから?」
「我々は神の国へは参れませんので仕方の無いことではあるんですが・・・・ファラオが両兄君様に何の承諾もなしにキャロル様を王妃にされたこと・・・・・本当は許されていらっしゃらないんじゃないかと・・・・」
「・・・・・率直だねぇ・・・ま、それはそうだよ。」
「も、申し訳ございませんっ! でもっ、でも、ファラオは本当にキャロル様を心の底から愛されていて・・・、ですから・・・」
「許してくれ・・・と?」
「・・・・・・はい。」
「でも・・・・それは君が言うことではないよ」
「・・・・・・・」
「気持ちは分かるけどね。・・・僕らへの気遣いもありがたいとも思うよ。でも、君が妹を娶ったわけじゃないんだから。」
「・・・・・・」
「主君になりかわり・・・ってやつかもしれないけど・・・・・。だけどね、これだけは王様本人が言わなきゃ意味がないんだよ。」
「・・・も、申し訳・・・ありません。・・・差し出がましい口をきいてしまって」

「・・・・あの・・・」
「ん?」
「・・・・・・ファラオの事・・・お嫌いじゃありませんよね?」

最初の質問に逆戻り
うるうる目線がたまらなく子犬のように見えてしまう。
・・・本当に、これ以上ないくらい忠犬だよ。

「だから、好きでも嫌いでもないよ。」
「本当に怒っていらっしゃいませんか?」
「・・・・・・なんでそこまで気にするのかな?」
「・・・・・・・」
「・・もしかしてさ・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・僕らが王様を呪い殺すとでも思ってたりしてる?神様の力でもつかって」

「・・・・・・・・・・・・・・」


「図星なんだ・・・(苦笑)」
「・・・・・あ、あの・・・・・あの・・・・・・」

彼は叱られて廊下で立たされたかのように、泣きそうな真っ赤な顔をしてうなだれた。
まいったな・・・
あのさぁ・・いくらなんでもそんなことしないって。(ていうか、出来ないよ)

でも、確かに古代の人にしてみれば、結構深刻な問題ではあるかもしれないな。
神の怒りは何よりも恐い・・・。
・・・・それをストレートに(いちおう神であることらしい)僕に聞いた彼
その勇気には答えてあげなきゃならないだろうね。
エセ神様でも君のせいでへそ曲げるような狭量なことしないってば・・・そんなおびえるような上目遣いされちゃったらたまらないなぁ・・・(苦笑)

ふぅ・・と一息、息をついて腕を組む。

「・・・・呪ったりなんかしないよ。僕は。(にこっ)」
「・・・・!」
「安心しなさい。君たちの大事な王様を呪い殺したりなんかしないから。」
「ロディ様!!」
「・・・・・でもライアン兄さんの方は知らないけどね。」
「!!っっっ」


面白い・・・・
嬉々としたり、奈落に突き落とされたり、ぶんぶん振り切れる顔の表情が。

「くくくくっ」
「ロ、ロディ様・・・っっ」
「いや、失礼。怒ってるというか・・僕ほど納得していないというぐらいじゃないかな?兄の場合は。」

「では・・・・・ライアン様は・・・・やはり今でも・・(真っ青)」
「まぁ、たぶん王様とキャロルの間の事は禁句だろうね。あんまり真正面から藪をつついて本気で怒らせないように。」
「は、はいっ!!」

「でも・・・(ぼそっ)・・・・・隊長みたいな人が王様を支えてるなら・・」
「はい?」
「好きになれるかどうかは別だけど、兄も流石に呪い殺したりはしないと思うよ。(そもそも出来ないし)」
「本当ですか?」
「うん。それに犬好きだから。彼らのためにも。」
「・・・は????? 王宮に犬は飼っていませんよ?」

本当に・・・ウナス隊長は敏捷な小型犬のようだ。(笑)
そういえば・・・ミヌーエ将軍も根っからの犬系だな・・・。
あっちはどう考えても大型の警察犬だけど。
兄さんの専属SPにもあんな感じのがいたなぁ・・・・確か。

「王様もライアン兄さんも・・どうしてだか好みだけは似てる。」
「・・・何の・・・・お話ですか?」
「ん? うん、性格の話。」
「・・・・・は、はぁ・・・じゃぁ、犬は? ・・・それって・・・何の意味が???」

文字通り目を白黒させて混乱しきっているウナス
なにやら肝心の話がかみ合わず、??を空中に散布しながらそのままその場をはずした。




「可愛いねぇ。彼、王様の秘蔵っ子・・・ってところかな?」

かさり・・・と木陰から人影が伸びた

「あまり・・・あれをからかって下さるな。義兄上殿」
「正直で素直で真っ直ぐで・・・王様一筋。 ああいう忠犬を側に置いていると気持ちが楽になるでしょう?」
「・・・・・・」
「慕いすぎて、恐いもの知らずなところもあるようだけどね。・・・・王様の為に直接僕の真意を聞きに来たんだよ。・・・だから見なかったふりをしておいてあげてよ。・・・君にとっては余計な詮索でも、彼には真剣な・・一大事だったんだから。」
「・・・・・ふんっ。 ・・・嫌われて結構。・・・別にわざわざそなたに好かれようなどとは思わぬ。」
「・・・お互い様さ。 まぁ、・・・ウナス隊長の勇気に敬意を評して一つ教えてあげようか。・・どうして僕が王様を今のところ認めてるかだけど・・・・・正式に王妃にするまでキャロルに手出しをしなかったということかな。・・・古代の王様にしては礼節をちゃんと律儀に守ってるほうだよね。」
「・・・・・」
「・・・君を全面的に信頼しているとは言わないけど・・・・その態度だけは紳士(ジェントルマン)として認めるよ。」
「・・・ふん」
「でなければ、今頃こんな談笑してないなぁ。(くすっ) 絶対。」
「では・・そうでなければ・・・・わたしは既に神に呪われていたと?」
「まさか。」

眩しそうに頭上を揺らめかす木漏れ日を見上げてロディは笑った。


「――― そんな時間のかかる 『生ぬるい事』 すると思うかい? この 『僕』 と 『兄』 が。(にこっ)」

「・・・・・確かに。」



さらりと交わされる寒い会話も 離れた所からみればとても穏かな光景にしか見えなかっただろう。
バルコニーの上から、そんな二人を見つけた黄金の王妃は、嬉しそうに二人の名を呼びながら庭へ駆け下りてきたのだった。




Fin.





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