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好 物




「風邪ひいたんだって?」
「もう大丈夫。ちょっと熱気味だっただけだから。」

ベッドに半分体を起こしていたキャロル。
にこにこ笑っているけど、ちょっと顔色が悪い。

「もう熱はひいたんだけど…お医者様が今日一日は動いちゃダメって言うから」
「そうだなぁ…。ちゃんとご飯食べてるかい?」
「ええ。さっき食べたところよ。」

そばに置かれている盆には食事のあと。
とはいえエジプトのスープというか煮込み野菜のような消化によさそうなものがほとんど大半残っている。
食べたっていうより、ちょっと口をつけただけなんじゃないのか?

「ふうん・・・」

蓋付の椀に薬湯らしきものも乗っていた。
エジプトの薬は基本的に薬湯だ。

「これも飲んだのかい?」
「……」
「ははぁ・・・・残したんだ?」
「でも、こっちは半分は飲んだのよ。」
「そりゃすごいね。僕は一口でギブアップだったよ。(笑)」

僕もちょっと前に微熱が出た時これ試したんだけど…量は多いし苦いし飲みなれなくて逆に気分が急降下したものだ。

「…さすがにこればっかりじゃあなぁ…。何か食べたいものあるかい?ご希望があればできる限り用意してあげるよ。」
「何かって・・・言われても・・・」
「ほら、オートミールとかミルク粥とか…ママ特製の蜂蜜たっぷりのホットレモンとか。」

ここではリクエストできない現代で彼女が好んで食べていたもの。
リード家で日々口にしていた味。
それを聞いてキャロルの顔がちょっとほころんだ。
やっぱりね。正直体が弱っているときは、昔から・・小さい時から食べなれたものがあった方が体が安心するものだ。

「・・・・じゃあ…(ぽそっ)甘いロイヤルミルクティーがいい…」
「そう?…生クリーム入っていた方がいい?」
「…(こくん)」
「OK。…フレンチトーストもつけてあげようか?」
「作れるの?!」
「任せなさい。ま、確かに食パンの変わりに別のパンで代用するけど、味は確かだよ。…食べられる?」
「Yes♪」
「よし。(微笑)Please just a morment, Lady.」
「Sure♪」

良い子良い子という風にキャロルの頭上に手を置いて振り返ると、とんでもなく不機嫌な悪鬼がキャロルの部屋のドアの入り口からこちらをにらんでいた。

実は今までの会話・・・全部イングリッシュだったんだよね。

「王様、ちょっとナフテラさんお借りするよ。キャロルの好物作ってくるから。」
「・・・・なんだと? キャロル、何故わたしにそれを申さぬ!何でも用意してやるといつも申しているではないか!」
「(呆れ)・・・あのさ、エジプトの人が見たことも食べたこともないものをいくらなんでもキャロルだって注文できるわけないじゃないか。…気弱になってる時は『故郷の味』が一番の特効薬ってこと。キャロルの体のためだから今回は怒らないでもらいたいな。(にこっ)」
「・・・・・・それでは毎回何かあればそなたを呼ばねばならぬではないか(苦虫噛んだ顔)」
「だからそれは無理だからナフテラさんに作り方覚えてもらうんだよ。王様の分も用意するから一緒に食べよう。どう?…それでいいだろう?」
「・・・一緒に・・・だと?」
「そうだよ。これは『家族の味』だからね。王様もリード家の一員だし。味わってもらうべきかな?って。」
「賛成♪ メンフィス、一緒にいただきましょうよ♪」

そして・・・
カップをはみ出るほどクリームたっぷりの激甘ミルクティーと、かなり卵黄こってりジューシー(?!)なフレンチトースト(はちみつ全面がけ)が食卓に並ぶことになった。

嬉々としてこれらをきれいに平らげ元気を取り戻した王妃に対し、
王は半日ほど胸焼けにさいなまれたという。







Fin.





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