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秘 密 |

16
2人を見下ろしながら・・・・・
少し何かを思い出す風にして、キラリとメンフィスの黒瞳が光る
「ふん・・・ そうか・・・なるほどな。」
ドキ・・ン・・・
(メンフィス・・?!?!?!)
キャロルの鼓動が一層冷たく心臓を打った
王の視線がピタリとこの二人に向いて止まっている。
メンフィスは膝をつき礼をとる二人の容姿をじっと見下ろしていた。
「・・・・・・・・・」
さすがに二人も気づく
な、なんだろうこの妙なファラオの沈黙は・・・・・
おかしい
さっきまで実験結果に満足げだったのに。
別に勘気をこうむったわけでもないのに、何かこう・・射殺されそうな気があるのはなぜだろう?
射殺されそうな?!
そうだ・・・『殺気』だ。
一見微笑んでいるかのように見えて・・・その目は全く笑っていない・・・
なぜか痛いほどの冷ややかな殺気を感じる・・・気がする
そうしているうちに、地獄の冷気のような声がおもむろに前方から降ってきた
「礼には及ばぬ。・・・・・・・・・・・・・全ては我がエジプトの国益のためぞ。・・・・その方ら、今後も引き続き成果をあげるよう尽力いたせ。」
「(ラシード)は、はい。・・・・微力ながら良き結果を出せるよう・・・はげみまする」
「(アル)・・・・ありがたきお言葉・・・いたみいります」
「・・・・・・・・・」
どのくらいそのままこの妙な沈黙がつづいただろう。
オシリスににらまれた死者のごとく・・・・・というか、なぜか・・・どういうわけだか今にもザックリと袈裟切にされそうなピリピリした空気が王からずっとこちらに発せられ続けているのは確かだ。
(どっ・・・どうなっているんだ?!!!!)
とにかく恐ろしい・・
なにがなんだかわからないが、とにかく気味が悪い程・・今すぐ裸足で逃げ出したいほど居心地が悪い
「〜〜〜〜〜・・・っっっ」
ざっ
「!」
ばさっっ
頬にぶち当たる風圧
それとともに嗅ぎなれない芳香が激しい風圧と一緒によぎった。
おそらく非常に希少な香油だろう。
その高貴な香りが王たる者との上下の格差を歴然と主張し、自分たちの目前に威圧の幕を張ったような気がした。
「・・・・・・・・・・・・・・・戻るぞ ミヌーエ。」
「はっ」
カツ カツ カツ カツ ・・・・・・・・・・
重厚な刺繍が施された肩布をばさりと乱暴なほどに翻してファラオがその場をあとにしていく。
「では・・」
(できるだけお早めにお戻りください。王妃様)
(・・・・・はい。・・・)
ミヌーエ将軍はイムホテップに(そして傍のキャロルにも)軽く目礼してファラオにつき従い後を追う。
そうしてやっと・・・完全に技術楼の実験室から王の気配が・・・香りが消えた。
とたんに、ラシードとアルは極度の緊張から開放され脱力してしまった。
がたっ・・・
「・・・・・・・・〜〜〜〜〜〜っっっ」
背にじっとりとながれる嫌な汗
ラシードは隣の能天気な親友アルの首筋にもつたっている同じ冷や汗の多さを見て、先ほど自分が感じた王への緊張感は間違いなかったことを確認した。
根が正直なアルが、声を潜めながらも、案の定、先にストレートに恐怖を吐露しだした。
(超怖ぇえええ〜〜〜〜っっ!! なぁ、なんやったんやアレ?!?!俺らなんかした?!!知らんうちに装置の水とか部品 王に跳ね飛ばして粗相でもしたっけ???)
(知らんわ!)
(そやかて完全にファラオからメンチ切られとったんやぞ!実験成功しとったっつーのになんで俺らだけ睨まれとるねん!)
(だから知らんと言ってるだろうがっ!!)
そんな二人に陰でキャロルは心の中でひたすら合掌してあやまっていた。
(・・・・・・・ご、ごめんね二人ともっ 迷惑かけてっ・・)
今のは絶対に、完全な『八つ当たり』だ。
メンフィスはキャロルが自分以外の男性に目を向けることがとにかく生理的に嫌なのだ。
メンフィスの側近であるミヌーエやウナス達とですら、自分が親密に話し込んでいたりすると必ず不機嫌になるし、嫉妬されてしまうことがある。
・・・いえ、嫉妬程度ならどれほどいいか。。。。。
(あ〜・・・ わたしが仲良く二人と話してたのがきっと物凄く気にいらなかったのよね・・・・あれ絶対そうだわ。。 )
誰にも渡したくないし、触れさせたくないってくらい愛してくれているのは本当に分かってはいるけど・・・女冥利につきることなんだけど・・ああなってしまうと周りは本気で怖いだろう。
自分(キャロル)以外の者には容赦がないだけに、あの状態のメンフィスにでも正面を向いていられるのは、全てそのまま受け止めても何事もなかったかのように涼しい顔で立っていられるミヌーエ将軍のような頑強なつわものか、全て受け止めてボコボコに倒れても健気に這い上がってついてくる(?)ウナスのような忠義者か、・・いずれにせよ、そんな人間は存在自体が非常に少数に違いない。。。。
「クレオや・・」
「は、はい!」
イムホテップが声をかけた。
「わたしもそろそろ宮殿に戻るが、・・・・・・そなたはいかがする?こちらが気になるなら・・・」
「いえ、戻ります。」
・・・さすがにあのメンフィスの様子を思うとここに長居はできない。
「ふむ。そうか。・・・・・・では参ろうか。」
「はい・・・。 えと・・あの・・」
「ん?」
「(こそっ)・・・・あの・・・色々ご面倒をおかけしてしまって・・ごめんなさい。。 『おじいさま』。」
「・・・・まぁ、お転婆が過ぎたかもしれぬのぅ。・・・「自由」と「勝手」は違うということじゃ。ここへの立ち入りを許可したとはいえ、そなたはあくまで『貴族の娘』に過ぎん。正規の『研究員』ではないからの。立場を忘れたでは困るのじゃ。今後もここに出入りしたいと思っているのならば、少々立ち居振る舞いは気をつけたが方がよいの。」
「! ・・・・・・・・はい・・」
実験結果に夢中になってしまい、王の目前で『王妃』ということをすっかり忘れかけていた自分に忠告がとんだと分かった。それに・・皆から好意的に黙認されているとはいえ、自分はここでは「もぐり」の部外者だ。あくまで『陰で見ている』だけであり、その存在を消さなければならないものを、学者宜しく先頭きって表でしゃばって目立つ意見をするなど論外だ。
部外者であることを選んでここに入ったからには、陰でいることに徹しなければ意味がない。
(わたしったら・・・自分で『お願いして』そうしてもらってたのに。。。)
しゅんとうなだれたキャロルの頭にふわりと老賢者の手が乗せられる。
「ふっふっ・・・・・『少々』と申しておる。なにも全てを責めて申しておるのではない。大事なこと、守らなければならない事へ気を配ることを忘れなければよいのじゃ。」
「・・・・・・はい。」
「うむうむ。」
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