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秘 密 |

15
「・・・・・・・・・・・・・これは・・?」
実験場所にはやたらと背の高い樽の水槽と、その底辺りから細い管が何本もつながれ複雑に地を這っているようなものがおかれていた。それらは先端に向かうほど細くなり屋外の中庭にまで伸ばされて設置されている。
中央の水槽は軽く人の背丈3人分ほどもあろうか。
メンフィスは腕を組みながら頭上高くそびえるその水槽を見上げた。
「何だ?これは?」
「まだ正式な名前はつけていませんが・・・・水に高水圧をかける装置です。」
「『高水圧』だと?」
「はい。実用になるかどうかはこれからですが、この力を今後遠方への水利や農業など何らかの形で砂漠の都に応用できないかと考えております。」
中央の水槽には既に汲み入れられた水が大量に満たされている。
「それでははじめましょう。第一弁を開け!」
「おう!」
「次、第二弁開放!」
「了解!」
4〜5人の担当者が順に管に施されているストッパーのような弁をはずしていく。
水槽に近い場所から遠い方へと弁が外れていくたびにその場所まで水槽にあった水が押し出されていく仕組みだ。銅でつくられた細い管。精巧につないであるのだが、それでもギシついたりつなぎ目からわずかな水が染み出したりしているのが見て取れるのでかなりの水圧がそれぞれにかかっているのが想像できる。
「よし、じゃぁ最後いくぞ!せーのっ」
ドシュ・・・・・っっ!!!!
最後の先端部分であろう弁がはずされると、各先端から一斉に水しぶきが天に向かって吹き上げた。
「おお・・・・っ!!」
最初の噴出の勢いは驚くほど相当な威力だった。
先端部分が細く詰められていることもあって、水柱は鋭い矢のように一気に吹き上げ、軽く5メートルほど高く到達し、そのあと弧を描きながらキラキラと雨のように振り落ちてくる。
細かなしぶきがプリズムとなり、眩しい陽光を受けながら小さな虹がその場にかかった
「わぁ!! 綺麗・・・・!!」
「ほう・・・!」
水槽側の水圧がなくなるまでほんの1〜2分ほど
それでもその水の放水ショーは目にかなりの迫力で、見ている側には結構長い時間に感じられた。
「なんとも・・・・ なかなか面白き趣向じゃのぅ。確か『噴水』とか申しておったか・・・。」
「ええ。気圧と水面の高さを利用したごく簡単なサイフォンの仕組みだけど。」
「『サイフォン』・・・・・?」
「ちょっとびっくり。意外とかなりの威力があったわね。・・・・・・水源を湖や川からひいて水量と高さと噴出孔の圧力をうまくコントロールできれば、たぶんローマ水道みたいに継続的に噴出できるんだけど・・・これだけ強力な勢いをつけすぎると危険性もあるわね。・・・・・先端の部分とかつなぎ目とか・・もうちょっと強力なものにしておかないと実用には危ないかも・・・・・」
「・・・・そうですね。この水槽と短時間の噴射でこれですから・・強度強化しないと。」
「あと角度の微調整もね。水量の制御ももう少し工夫したほうがよさそうだし…」
「これだけ飛ぶんなら遠くの畑まで雨みたいに一気に水撒きもできそうだなぁ」
「ああそりゃぁいいぜ。」
上々の結果に一同は楽しげでもあった。
装置の具合を各所担当した技師たちがそれぞれ見て回る。
噴出孔は指の先ほどの細さになっている。それが少々先ほどの噴出の勢いでぐらついていた。
高水圧に耐えられるよう頑丈目な金属製でつくったつもりだったが、各所継ぎ目も甘かった場所や水漏れしている箇所がいくつもある。
ラシードとアルはその箇所を確認しながら即座に対応策を検討し始めた。
「どうしてもここのつなぎが甘くなるな・・・」
「銅は加工しやすいんやけど、やわらかい分ちょっと弱いしな。長期間の耐久性を考えたら難しいで。」
「ん〜そうね・・・・やっぱり土台はもっと頑丈に溶接するべきかしら。。それとも全部石を使うとか・・」
「場所によっては木材使うってのも手かもな。水含ませといたら膨張するし漏水対策は船と一緒で対応できるからな。」
「ああ。・・・なるほどねぇ・・・」
「これは・・・・そなたの発案か?『クレオ』とやら。」
「え?」
当然のように彼らと一緒になってカチャカチャと銅管や接続部の具合を覗き込んでいた「クレオ」ことキャロルに、メンフィスが背後から声をかけた。
「あの・・・・えと・・・ちょっとだけですわ。 ほ、ほんの少しだけ・・・」
「ほう・・・。」
「それに、装置自体を開発したのは彼らであってわたくしではありませんし。おほほほ。」
「まことに思っても見ないものを見せてもらったぞ。(にっこり)」
「はぃ・・?」
・・・・超絶美貌
キャロルこそ思ってもみないメンフィスの極上の笑顔にびっくりして固まった。
(でも、な・・・なんか・・これへんよ・・・・不自然なほどの表情じゃない??)
普通じゃ・・ない
キケン・・・・危険・・・
妙に心臓がドキドキと速度を増す
メンフィスは『その』素晴しい微笑のままキャロルから視線をはずさずに、テキパキと周囲に指令を出し始めた。
「そなたには後ほど『詳しい話』をじっくり聞かせてもらおう。・・・・・イムホテップ、この件の実用についての具体案を報告させよ。ミヌーエ、この技術班への必要資材を潤沢にまわすよう財務官どもに通達いたせ。経費も人材もだ。」
「はっ」
「かしこまりました」
「あ・・・ありがとう・・・ございます。。。・・・・・ファラオ」(←おどおどと礼をいうキャロル)
「ところで・・・・・・・」
「!」
「・・・・・設計者はお前たちか?」
「はい。」
「・・・・・・名は?」
「はっ、設計班のラシードと申します。設置開発はこちらの技術班アルが担当しております。もったいなくもこの度はファラオの甚大なるご助力賜り、心より御礼申し上げます。」
「ラシード・・とな・・?」
メンフィスは目の前で膝を折るラシードを見下ろした。
比較的すらりとした細身の長身
柔和な顔立ち・・
膝をついているが、立ち上がったらメンフィスと同じくらいの身長になるはずだ。
学者気質の生真面目さが取り柄であろうことは、その居住まいや雰囲気でわかる。
その隣にこうべをたれる一回り強ほど大柄な者がアルということか。
技術研究者というより、現場で率先して立ち回る大工職人な風貌の男だ。
おそらく空っ風のように突き抜けた性格の者ではなかろうか。
―――なんにせよ、どちらも『嫌味の無い』、いかにもキャロルが懐きそうな者共ではある・・・・
「・・・ファラオ?」
「・・・・・・・どこかで聞いた名だと思ったが・・・・・・・・。」
先ほどまで高揚気味の声音で上機嫌そうに指令をだしていたファラオの空気が、なぜか急に冷ややかな沈黙に変わった。
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