秘 密




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そこではガンゴンと派手な金属の作業音が響いていた。

キャロルの出入りしていた『開発技術班』は技師楼の一番奥手側にあり、その頃ちょうど実験準備の真っ最中であった。
そこに携わっていたのは銅職人たちをあわせて十数人。
見るからに無口でいかめしい顔立ちの、どちらかというと胸板の厚いおじさん集団がもくもくと作業を進めている。
その傍らで、細身のラシードが設計図面と見比べながら、組みあがった大きな筒の中を覗き込み、それぞれの部品の接続部分を確認していた。

「よし、完了。アル、とりあえずこっちの支えは大丈夫だ。」
「おっしゃぁ。ほな、ぼちぼち試してみよーかぁ。」
「おうっ。」

ぱんぱんと豪快に両手の汚れを払い、大柄上背なアルがきょろきょろと周りを見回す。

「あんれ〜?なぁ、ところでお嬢さんはどないしたんや?さっきまでそのへんにちょろちょろとおったやろ?・・・・そろそろ準備も終わるってのにどこ行ったんや?勝手にはじめてしもたらめちゃ怒るくせに・・・」
「ん?ああ、今日は例の『おじいさま』が見に来てくださるからってさっき表まで迎えにいったぞ。」
「・・・・・・マジ?・・・・本気で“あの方”がココに来はんの?」
「――らしい。」
「はっはぁ〜。それやったら、相当気合入れてやらんとなぁ〜。」
「まあな。」

何か新しい試みをするときは、結果はどうであれ興奮する。
このごろは特にそうだ。
あの『お嬢さん』と組んで討論し検討するたびに、次々と何かの新しい扉が開いていく感じがするから。

実のところ、彼女の口からこぼれ出るものは「こんなものがあればいいな・・・」というほんの少しの希望や提案にすぎない。
だがそれは開発専門の自分たちにとって結構興味をそそられる課題の「種」だったりする事が多いのだ。
着眼点が違うというか・・ 彼女は2〜3歩前の道を照らすかのような新しい切り口の考え方を提示してくる。
恐らく・・・知恵を絞ればできなくはないだろうが、そんなものは今まで無かったような物。

風や水、自然の動力を利用して動く仕掛け
滑車や歯車、バネを組み合わせたさまざまな日用道具
時間がくると自動的に音がなる時計
暑い部屋の温度を下げる方法・・・・・

そのほとんどがまだ検討中で未熟な素案である事が多いのだが、それが自分たちの知識や技術を駆使して「可能」なものへと姿を変えるのが見えたとき、なんというか・・とてもよい気分になるのだ。
そう、技術屋独特の「達成感」というものだろう。

そして1つの技術の応用は数え切れないほどの多様な技術に形をかえて裾野を広げていく。
精巧な水車が水路へ大量の水を運び、農地の規模も拡大した。
その回転力が自動的に動く碾き臼や装置、時には巨大な石材を効率よく運搬する動力にもなる。
そして動力の性能がよくなればもっともっと他の何かに使えるかもしれない…
また改良されてどんどん新しい面白いものが出来ていく。

彼女は想像力の泉にぽちゃんと投げられる一粒の小石のようだ。

一見無駄な思いつきが・・・それこそ「謎解き遊び」のような彼女の思いつきが、意外と次の発明のきっかけになったりしていく。
今回の実験も、実用性はないのでどちらかというと「お遊び」に近い。
時にその彼女の理屈についてはこの目で確かめてみなければにわかには信じられない事もあったりする。
お嬢さんの理論が本当のことなのかどうか・・・
ラシードでなくても技術屋や開発者のたぐいなら、大半が興味をそそられる。

「とにかく、試してみるだけでも面白いわな。結果がついてくれば万々歳やしなぁ♪ ほんま・・上手くいくとええよな。」