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秘 密 |

9
食事の用意がされた中庭の葡萄蔓棚の覆うくつろぎの場所
杯を傾けながら、今後のキャロルの警護の手はずを考えつつ正面の妃を見つめる。
夫の胸中の心配なぞ知りもせず、キャロルは大振りのレタスや柔らかなキャベツなどの葉に色々な料理を包んで美味しそうに頬張っていた。
それはキャロルの好みの食べ方だ。
出会ったばかりの頃からしばらくの間、共に食事をする際、小さな果物やパンぐらいにしか手をつけなかったので、よほどエジプトの料理が口に合わないのかと思った。
そうではないと気づいたのは何時の頃からか・・この食べ方をし始めてからだ。
キャロルにしてみれば、手づかみの食事に慣れなくて、どうにか手を汚さずに食べる自分のマナーにそった方法をあみだした・・というだけなのだが。
ナイフとフォークがあれば・・と今でも思うことはあるが、クッションにゆったり座って、膝近くに広く並べられた大皿の料理を取り分けて食べるというスタイルでは、西洋マナーの食事方法は姿勢にもかなり無理がある。
くるむ野菜が少なければ、パンを割って料理をはさみハンバーガースタイルで食べる事も多い。
キャロルがこうして食するのを好む為、今では料理人たちも心得たもので、いつも必ずキャロルの小脇には何らかの柔らかな大振りの野菜の葉か、挟み込みやすい形の焼きたてのパンや薄手のナンのようなものが常備されている。
「・・・・? なに? メンフィス?」
「器用なものだなと思ってな。」
「え? あんっ、ちょっと・・・」
綺麗に料理をまいたレタス包みをキャロルの手から取り上げて頬張る。
中身は一口、二口ほどですぐに食べきれてしまうほどの量だけ
おおきく頬張って食べることの多いメンフィスにとっては非常に物足りない感じがする。
何よりいちいち面倒くさい。
取り上げた料理をメンフィスがペロリと食しきる間に、キャロルはしかたないとばかりに又くるくると次に自分の食べる分を挟んで巻きだした。
はむっ
小さな唇がサラダ巻きな料理を美味しそうに食べていく。
「・・・・・ねぇ・・さっきからどうしたの?」
「―――どう・・とは?」
「だって・・ずっと食事の手が止まっているんだもの。」
「・・・・・そなたにみとれていただけだ。」
「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・そ、そう・・。」
(ほ、本当に・・・メンフィスってばストレートなんだから・・・・どうリアクションしていいか分からなくなっちゃうじゃないの・・・・)
自分の頬が既に赤くなっているのがわかる。
ちょっとうつむき気味に照れ隠しをしていたが、ふいにメンフィスの指が伸びてきて自分の頤をとらえた。
「・・・・・・んんっ・・!!」
「・・・・・・・・・・・やはりそなたが一番旨い・・・・・。」
真正面からキャロルの脇に居場所を移し、小さな体を引き寄せる。
「う・・旨いって・・・―――もう、・・・メンフィスったら・・・・・・・ちょっと・・・・・・・あ!・・・・ねぇ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・暴れるな・・・・おとなしくしておれ」
「そんな・・・・・・わ、わたしが食事出来ないわ。わたしまだ・・・・・」
軽く何度も唇を重ねる合間をぬってキャロルが文句を言い出した。
「・・・・ふん。ゆっくり味わうこともしておらぬに」
「だってぇ・・・」
「ではさっさと食べるが良い」
「・・・・・・・あの・・・・メンフィス」
「なんだ?」
「――――――このままで?」
メンフィスの腕がしっかり自分の腰に巻きついている。
「・・・・・・・・何か文句があるか?わたしはこれでも我慢しているのだぞ」
「我慢・・・ね・・」
キャロルは小さく笑って、いたずらっぽく後ろを見上げる。
「・・・・じゃあ ・・・・・・ちょっとのあいだだけ“充電”してあげるわ。」
「ん?! キャロル・・・・!」
メンフィスの首筋にぴったりとおでこを擦り寄らせた。
少し体をひねって腕をまわす。
ぎゅっ・・・
細い腕をせいいっぱい伸ばしてたくましい背中を抱きしめる。
胸があわさるようにしてキャロルが抱きついてきたのだ。
「・・・・・動かないで。」
「・・・・・・・////////!」
「ね。メンフィス。。このままで・・・・いい?」
「・・・・・・うむ・・・・・」
キャロルは安心したように大きく一度深呼吸をして、広い胸の中に体を預けた。
自然とメンフィスの手がキャロルの背をゆっくりと撫で下ろす。
そして、おさまりの良い細い腰に両腕を絡め止めた。
「キャロル・・・・・」
「ん・・・」
肌を通して伝わるキャロルの優しい息遣いがなんと心地よいのだろう・・・・・
その息遣いだけを感じていたくて、メンフィスはゆるりと自分の瞼を閉じた。
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