秘 密




7


何も言わず、メンフィスが移動していく。
二人だけの見慣れた部屋へ・・

「あの・・・だから・・・・・・・ ねぇ、わたしの言ってること分かってくれてる? ちゃんと眠ってって・・・・きゃっ ちょっと!メンフィスっ・・・あ!!」
「ちゃんと眠るとも。・・・もちろんそなたが寝かしつけてくれるのであろう?」

こうなるともうほとんど聞く耳を持っていない。
くすくすと笑いながら首筋をたどるメンフィスの唇
キャロルは小さく息を吐いて観念した。
されるがままに任せメンフィスの腕の中に落ちる。

「・・・・キャロル・・・・・・・」

揺られるままに運ばれてゆく時、いつも天国へ行くかのような夢心地にさせられていくけれど・・
気持ちはそうでも・・なにもしていないのに、胸が激しく苦しくなって体がカチンコチンになっていってしまう。なぜか、いつも・・いつも・・・・・


貴方は笑う・・
紗を解く指にこわばる私を見つめながら。
震える私を暖めながら・・・・

「愛している・・・」

・・そう言って口づけるのが合図
わたしの全てが貴方に捕らえられてしまう瞬間
その全ては思いのまま・・
私の五感全てが貴方の手で操られてしまう
見えるもの・・聞こえるもの・・・触れるもの・・感じるもの・・
みんなあなただけ・・
とけるような口付けの味も
私を酔わす貴方の香りも・・

「メンフィス・・・」

貴方への心配が自分の不安に摩り替わる
貴方を呼んでは言いたい次の言葉が出てこなくなる
幸せの中で何かが凍りつく
心のどこかで怖くなる・・・・

何をしても貴方を失ってしまいそうで
口に出してしまうと本当にそうなってしまいそうで・・

貴方の為に出来ることは何でもやろうと思ったけれど
この不安はどうやっても消えない

あと・・・・・どれだけの時間を一緒に過ごす事ができるのだろう?
貴方を失ってしまったら・・わたしはきっと生きていけない・・・
不意に自分の足元が底なしの蟻地獄にさらわれたような心地になる

ぎゅっ・・


「キャロル・・・?」


目じりに浮かんだ涙を舌先で拭い、心配そうにみつめる貴方・・

「・・・・・どうした?」
「ううん・・なにも・・・」
「・・・・」
「・・・・・幸せすぎて・・」

そういうのが精一杯
胸元に顔を埋めて貴方の暖かさを確かめる
脈が・・鼓動が・・・聞こえてくる・・
いつまでもこうしていたい
離れたくない

甘えていると思ったのかしら?
貴方は胸の中にうずくまるような私を、そっと夜具で包み込みながら、子供を寝かしつけるかのように背を撫でてくれた。

「・・・愛している・・・キャロル・・」

―――何度でも言って
ずっとずっと
何度でも聞きたいの・・・
何度聞いても足りないの・・・・










薄紅な夜明け―――

又、彼の激務の一日が始まる。
メンフィスがゆっくり体を休める日などあるのだろうか。
・・・そのために昨夜は仕事から早く開放されるよう足を運んだはずだったのに。
理性もなにもかもふきとばされてしまって・・・結局二人して眠りについたのはほんの数時間前だったような気がする・・・・。
でももしかしたら、眠っていたのは自分だけだったのかもしれない―――
優しく触れるあなたの手のぬくもりが気持ちよすぎて・・また先に眠りに落とされてしまったから。
軽く聞こえる衣擦れの音にさっき目を覚ましたけれど、もうその時にはすっかりメンフィスは朝の身支度を済ませていた。

「・・・・お、おはよう―――」
「うむ。―――昼までには一度もどる。・・・・まだ早い・・そなたはもうすこし休んでいよ。」
「ん・・・・・・っ」

きゅっと首筋を軽く持ち上げ、名残惜しげに甘いキスをしながらそう告げる。
それを言わなければならないのはわたしの方なのに。
ただでさえ忙しい人なのに
いくら若くて頑丈な人とはいえ・・・

「あの・・・大丈夫なの?」
「ん?」

思わずキャロルは出て行こうとするメンフィスを呼び止める。
何を思ったか、メンフィスは軽く片目を細めた。

「・・・・そんなに激しく抱いた覚えはないが・・あの程度で音をあげてもらっては困るぞ」
「なっ!!! ち、違うわよ!もう、メンフィスったら いやっ」
「はははははっ  行ってくる。」

キャロルは急いで寝台から駆け下りた。
ふわりと花びらが舞うように翻る裾
何事かと目を見張るメンフィスにキャロルは小さな両手でその顔を包み爪先立つ。
そして小さくメンフィスの唇をついばんだ。

「・・キャロル・・・・!」
「気をつけてね。・・・お願い・・無理はしないで。疲れた時は遠慮なく休んでね。」
「・・・・・・・・・そなた先ほどからそんな心配をしていたのか?」
「もう!そんなってなによ。本当に心配してるのよわたし・・・毎日毎日、ものすごく忙しくしてるから・・・」
「案ずるな―――言われずとも休みたい時には休む。・・・そなたの側でな。」
「・・・・・・・・・」

少し悪戯な微笑を浮かべながらメンフィスはしっかりとキャロルの腰に手を回し、もちあげるようにしてもう一度熱く口付け返した。