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ライセンス



◆第1段階◆ 実技 「基本姿勢」 (教官メンフィス王)

「鞍に腰をかけたら背筋を伸ばして重心を安定させろ。あと、太ももでしっかり馬の背中をはさむのだ。落ちないように、よいか?」
「こう?」
「こら、ふらふら頭を動かすな! 肩の力は抜いて・・・真っ直ぐ遠くに視線を置け。」
「はい。先生!」
「手綱に頼りすぎると前かがみになりやすいからな。鐙の位置はどうだ?」
「大丈夫よっ。ああ素敵だわっっっ!今わたし古代の馬に一人で乗ってるのよ!!嬉しい!!」
「気を抜くなというに!怪我をするぞ!!」

メンフィスは気が気ではない。片時も離れずキャロルの乗る馬の轡をひき、自ら馬具の調整までして、事細かく注意を促す。

キャロルの乗馬の練習には約束通り、ファラオ自身が手取り足取り教える事になった。
尚、ファラオの不在中、王妃が乗馬の練習をする事は一切禁止。
違反の際は王妃の乗馬許可も今後一切でないとのことだ。
この事からも王の胸中の心配は痛いほどよく分かる。
実際周囲も、王妃を見ていて、はらはらさせられっぱなしなのだ。

「さぁ、では一度降りよ。キャロル、手を」
「えぇー?このまま少し歩くんじゃないの?」
「馬鹿者!まずは乗り降りだ。ろくに一人で乗れもせぬのに文句を申すな!そら」

しぶしぶメンフィスの手を借りて降りた後、キャロルはメンフィスの颯爽と飛び乗る様を見せられた。
だが馬首を返しすぐにまた飛び降りている。お手本を見せてくれているのだ。

「これが出来るまで動かしてはならん。それと、絶対に不用意に馬の真後ろに立つな。」
「きゃっ!!」
「機嫌が悪ければ蹴り上げられるぞ。そなたなど一瞬で大怪我だ」

強引に引き寄せられ何事かと思ったキャロルだったが、どうやらその位置に近かったらしい。
大きなメンフィスの溜息がもれる。

「まったく、目が離せぬわ・・・」
「ご、ごめんなさい。気をつけるわ。」

ヨッコラショと鐙に足を掛け早速騎乗に挑戦。
しかしとにかく馬の背が高い。
実際メンフィスの肩よりやや上だ。
小さなキャロルには酷というもの。足を鐙にかけるだけでも、とんでもない格好になってしまう。

「ちょっとまて、キャロル・・・・今、足場を用意させる。」

見るに見かねてすぐに踏み台を用意させたが、それでもへっぴり腰の王妃の姿は誰の目にもいただけない。

「もう・・いいかげんやめておかぬか?・・・・・そなたには無理だ」
「い〜〜〜や〜〜〜〜っっっ」

懸命に歯を食いしばって乗りあがる。
意地でもまたがろうとする様子はまさにジャングルジムにとりついている子供だ。
やっとのことで乗りあがれるとそれはもう上機嫌である。

「ねぇ、メンフィス! どう? 練習すれば私だってきっと上手くなるわよ。」
「・・・・・・・・」

(それは一体いつなのだ・・・!!)

誰もが胸のうちで大合唱していたことをキャロルは知る芳もない・・・。


2001年 「ししぃの館」投稿作品





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