chapter 8
〜 星座の物語 〜
むかしむかし・・・・
エジプトにプトレマイオス3世というファラオがいました。
彼の妃はとても美しく、その髪は黄金色をしていて、また地につくほど長かったのだそうです。
だれもがうらやむ美しい妃の名はベレニケ。
ファラオにとって彼女はなによりも大切な自慢の妃でした。
あるとき、近隣諸国とエジプトは戦争になり、ファラオは大軍を率いて出兵することになりました。
愛するプトレマイオス3世のために、ベレニケ王妃は愛の女神に祈ります。
「どうかファラオに勝利を・・・。わたくしのもとに愛する夫をお返し下さい。」
そういって、ざっくりとその見事な黄金の髪を肩から切り落とし、女神に捧げたのでした。
かくして、エジプトは勝利し、プトレマイオスは凱旋しました。
帰還した王は変わり果てた妃の髪を見て驚き声も出ません。
ベレニケ王妃は微笑んでファラオを抱きしめました。
「お帰りなさいませ・・わたくしの願いが神に届いたのですね」
二人は愛の女神の神殿へ行き、捧げられた髪を前にして改めて感謝の祈りを捧げました。
長く美しい髪を自分の為に惜しげもなく神に捧げた妃に、ファラオは永遠の愛を誓いました。
その次の日、黄金の髪は忽然と神殿から消えました。
そして不思議なことに、その夜、夜空に見慣れぬ星座が現れたのです。
彼らを見下ろしていた天の神が、二人の互いの愛の美しさに感動し、その黄金の髪を永遠に輝く星座として夜空に飾ったのでした。
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「それが『かみのけ座』のギリシア神話よ。どれがその星座なのかは私には分からないけれど・・ねぇ素敵なお話でしょう?ギリシア神話だから時代的にいうといまの時代よりずっと後の世の伝承になるのだけど。エジプトが題材だったからとても印象に残っていて・・」
「ふん・・・・真似などするでないぞ」
「え?」
「わたしの知らぬ間に勝手にその髪を切り落としたりなどしたら許さぬ!そなたの全てはわたしのものだ。髪の毛一筋たりとも誰にも渡さぬと申しておろう!」
「でも・・・・もしも本当に願いがかなうなら・・きっとわたしもそうするわよ」
「ならぬ!」
「きゃぁっ!!!い、痛い!痛いってば! メンフィス、髪引っ張らないで!!」
「大方捧げられた髪は盗まれたのであろう。そんなもの奪われた神官どもの都合の良い言い訳だ。」
「え?・・・・そ、そうかしら?」
「王は実力で勝利し帰還した。妃の愛も真実であろう。だが最後のくだりだけはどう考えても不祥事をごまかす為に無理やり作られたものにしか考えられぬ。その星座、誰もが見つけられるような目立つ星でもあるのか?」
「・・・・それは・・わたし星座にはあまり詳しくないし・・でも確かに目立つ星座ではないはず・・よね。・・・よほど天文に興味のある人しか分からないのじゃないかしら。」
「それみろ。『あれがその星座だ』と神のせいにする・・神殿側の言い訳か・・・・・あるいは王自身がそう布告するよう命じたのやもしれぬな・・」
「?! どうして王が?」
「もしもその髪が既に『御神体』として広く信奉され国の内外にとどろいていたらどうする?それが『盗まれた』などということになってみろ。それこそおおごとだ。事実が流布すれば国の威信にもかかわるぞ。最初から人目にふれず秘宝とされていればどうにでもなるかもしれぬが・・もしかしたらなくなってしまったことが世間に隠すことすら出来ない状況だったのかもしれぬな。」
「だから・・神話にした?星になったので髪はここには無いといって?」
「・・そういうところではないのか?なんにせよ、伝承などというものはどこかに作為があるものだ。」
「すごい・・。そんなこと・・・思ってもみなかったわ。やっぱり王だからかしら?みる視点が違うのね。」
「・・・よいな。切ってはならぬぞ。」
「だからっ!!引っ張らないでってば〜っっ!!」
「神であろうと・・渡しはせぬ。」
「メンフィス・・」
「わかったな。 さあ、ではまいるか」
「え? どこへ?」
「その自慢の髪を洗ってやろう。そら。」
「ええええっ!! ウソっ! きゃぁぁぁ!!!」(←M様既にC嬢抱き上げ済)
「わたしの髪はそなたに洗わせてやる。」
「もう・・・・バカ」
おしまい
愛の奥宮殿へ