chapter 6
〜 カルチャーショック 〜
「こ・・・・・これ?」
「うむ。なかなか良い出来具合だ。どうだ?美しかろう?」
「それは・・・そう・・・だけど・・・・ ええ・・そうね・・・凄く綺麗よとっても」
「・・・・・・・・・・・・・不服なのか?」
「そ、そんなことはないわ!!」
「――――そなたが気にいらぬならやり直させる。(カタン)」
「えっ!ちょっとまって!気に入らないなんてなにも言ってないわよ!メンフィス!!メンフィス待ってよ!」
「妃は満足しておらぬ。即刻やりなおせ!」
「は、はい・・」
申し訳なさそうに一人の壮年の男が頭を下げる。
このある几帳面そうな職人を前にして、メンフィスはやり直しの命を下したが、後ろからあわてて追いかけてきた王妃がすかさず滑り込みそれをさえぎった。
「いいっいいのよ。わたしはこれとっても気に入っているから。」
「キャロル・・」
「ねっ。素敵ですもの。メンフィスも「美しい」って言ってくれたもの。これでいいわ。」
「あのぅ・・・姫様・・。恐れながら、これでもわたしはこの道一筋でやってきましたで、少しでもご不満があるようなら気がすみませんよって・・・これは特にわたしにとって人生最高の仕事だと思っております。何回でもやり直させてもらいますで、お気に召さないところはなんでもおっしゃって下さい。」
「だから・・なんにも問題はないのよ。」
「キャロル・・ではどうしてそのようにいいわけめいた態度をとる?そなたの様子を見れば気に入っているか否かなど誰が見ても一目瞭然だ。」
「そ・・・そんなこといわれても・・・」
「そなたの顔をみればすぐに分かる。」
「・・・・・・・・・・だって・・・ああ・・もう、違うのよ!・・どういったらいいのかしら・・・ いいか悪いかなんて、本当に私にはよくわからなくて・・・・・」
「キャロル?」
「王妃様?」
石版を手に取りじっと見つめてはため息をつくキャロル。
その石版の面には1つの彫刻が彫られていた。
エジプトの伝統絵画方式にのっとった美しい女性像。鮮やかな顔料で着色もされている。
ハトホルの冠をかぶった本当に優雅で美しい装いの王妃像・・・・・
「・・・『わたし』・・なのよね。これ」
エジプトの絵画はとても好きだが、いざ自分がモデルであるとなるとかなりの違和感を感じてしまったのだ。顔は横顔、体は正面、腰から下はまた横向き、まぁそれはよいとして・・・
「だから気に入らぬならやり直させると申しておる!」
「気に入らない・・じゃなくって・・・・・・・・・・」
誇張された豊満な胸元・・透けて見えそうなほどの衣装のデザイン
「ただ・・あの・・・どうも見慣れなかっただけなのよ・・・」
古代王妃のレリーフとしてみれば、ごく普通と思える様相であっても、いざ自分がそれなのだと言われると、さすがに気恥ずかしさにさいなまれる。しかも・・・・
「新たに増築する神殿の正面に彫りこむのだ。最高のできばえに仕上げさせるぞ。楽しみにいたしておれ。」
・・・・ということで―――――
これは所謂そのデザインサンプルなのである。
ファラオと王妃が向かい合うかたちで正面入り口に巨大な彫刻として彫り入れられるらしい。
見上げるほどの大きさにこの彫刻が『超拡大』される・・・
それが自分の姿だと、国の内外に誇示するわけだ。
(や、やっぱり・・・・は・・・恥ずかしいわよ〜〜〜っっ!!!)
そんな心の叫びをメンフィスが気づくこともなく、キャロルのかわりにああだこうだと衣装や表情に注文をつけていく。
又、西洋の肖像画や写真をみなれている自分にとっては・・・本当に・・・本当に正直なところ、(みなには申し訳ないが)自分とは似ても似つかぬ肖像に思えてくる。
「こんな感じでどうだ?」
「ど、どう・・・って言われても・・・・・・・(汗)。(エジプト美術としては)とても綺麗だと思うし・・・・だから・・あの・・・・・建築物の彫刻の出来栄えはメンフィスの方がよく分かるでしょう?わたしには出来上がりの状態は想像もつかないし・・・・・メンフィスが気に入ってくれればそれでいいわ。」
「そうか?・・・・うむ。そうだな。よし、そなたの美しさを一番よく知っているのはわたしだからな♪(←とても嬉しそう) では、まかせよ!」
+++++++++++
かくして、数ヵ月後――――――
出来上がった神殿前で、キャロルはメンフィスがもっている表現感覚の違いを、改めて身にしみて感じたという。
「・・・・・・・・・▽○◇×っっ!!!!」(←大赤面)
『 未来永劫 わたしの愛はそなたのものだ 』
そんな文言が、例の超巨大彫刻の真正面に堂々と(でかでかと)彫りこまれていたそうな。。。。。。
Fin.
愛の奥宮殿へ