愛の奥宮殿へ  

chapter 31

〜 ビフォーアフター 〜



完璧な王妃の出で立ちもよいが、なによりやはりこちらが良い。

すこし上気した頬にまだ濡れた髪がつくような湯あみ直後のキャロルの姿。
おおぶりの布で髪のしずくをふき取りながら、時折長くうねる髪をかきあげるしぐさも色めいていて。

「・・・・・何? メンフィス?」

なんの化粧も施していない透き通る肌に映える青い瞳。
湯上りの白い簡素な衣装のみだが、それが余計に黄金の髪の輝きをひきたてる。

「・・・・いや。なんでもない。」
「・・・そう?」

すとんとテラス寄りの長椅子に腰かけ、さらさらとそよぐ風に気持ちよさそうに涼んだ。

「ふ〜っ、涼しい♪ やっとさっぱりしたわ。」

そうやって座ると優美な弓型の腰から足にかけての曲線がまた良い眺めなのだ。

「・・・・・・ねえ、・・・さっきからなぁに?一人で笑って・・・」
「ん?」
「何かいいことでもあったの?」

いいこと?
良いことだらけぞ。
こうして其方を独り占めで眺めていられるのだからな。

誰にも邪魔されず、しかもこんな無防備な姿をじっくり傍で堪能できるのがどれほど楽しいかそなたには分かるまい。
それに、こんな事で満ち足りた気分になる自分にも可笑しくて。
少し以前の・・・キャロルに出会う前の自分であればありえなかった感情だ。
女が身支度するような姿に興味を持つことなど全くなかったし、全裸であろうとそのあたりに転がっているただの家具のような感覚しかなかった。

だが・・
キャロルだけは何故か違う。
何もかもをそばで見たいと思った。

着飾った姿も好みではあるが、私だけが見ることができる今のそなたはもっと格別。
誰にも見せない、私にだけ目にする事が許されたそなたの寛いだ時間の全て。

・・・・まぁ、そうさせるようにわざと「ここ」で身支度させているのだがな。

普通なら全て「王妃の間」側で何もかもの支度をするのが通常だが、キャロルには婚儀以来「わたしの部屋」にて大半の事は済ませるようにさせている。キャロルも王妃になって最初から「そう」だったので何の疑問も持っていないが、実は慣例を退けて常に傍にあるように仕向けている。
人手を好まないキャロルの性格もあって、湯上り後など一人で身支度するほうが好みのようで、侍女でいた頃よりどうやら今の状況のほうが性に合っているらしい。

ふぁさっ

「・・!」

涼んでいたキャロルが自分からわたしの膝の上に腰かけて首筋に手をかけてきた。
少しすり寄って猫のように甘えてくる

「まぁいいわ。メンフィスがご機嫌ならそれで。ふふっ」

華奢な体が胸元で楽しそうに笑う。
湯上りの香油が淡く立ち上り、腕の中で甘い香りが広がった。

・・まことに至福の時間

自分だけが知り得るキャロルの姿に酔いしれる極上の時。



Fin.



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