chapter 23
〜 体力測定 〜
巨大なパンにたっぷりと塗られた蜂蜜
その上に一面にのせられた果物や木の実
そして一番奇妙なのは、そのパンにつきたてられたものであろう。
細い軸先に火をつけて、何本も何本も突き刺してあるのだ。
それが供されるのは毎年1度。
突然・・・というか、数年前からナイルの王妃が嬉々としてそれを携え、わざわざわたくしの所までお越しくださるようになったのだ。
今日はファラオの同席する協議の間にて議題が終わった時のことであった。
皆、昼休みに散会しようかという時に、いきなり「あの」『奇妙不可解な王妃の歌』が聞こえてきたのだ。
「Happy Birthday to You 〜
Happy Birthday to You 〜
Happy Birthday Dear IMHOTEP♪
Happy Birthday to You 〜〜〜♪♪♪ おめでとう〜 イムホテップ!」
どど〜ん・・・
なにやら今年は例年以上に異様に巨大なパンと、あのお決まりの火が大量にともされている。
6人ぐらいの侍女たちが土台を支えながらそれを協議の間までもちこんで入ってきた。
「・・・・そうか、今日はそなたの生誕の日か」
「そのようでございますな。こう齢(よわい)をかさねますとそのような日があることも既に忘却でございますが・・」
「なに言ってるのよイムホテップ!70歳って聞いていたから今年は特別大きいケーキを作ってもらったのよ。せっかくだからみんなで一緒にお祝いしようと思って♪」
「ほう。 ・・・『作ってもらった』そうだ。皆の者、安心いたせ。」
「は。ファラオ。 ・・もったいなくもありがたく。」
「!(カチン) 」
・・・ともかくも、王妃の言う習いにしたがい、あの大量に燃えさかる火を『吹き消さなければ』ならない。
いつも『一気に』・・と申されるが、これがかなりの難物なのだ。
王の時はこの半分よりももっと少ない火の量なのに、わたくしの場合なぜか水で消し止めた方が良いのではないかと思われるぐらいの状況であるからだ。
「・・・・王妃様・・・やはりこれを吹き消さねばならないのでしょうか?」
「もちろんよ。だって『年齢分の本数』を吹き消すのが『決まり』だから。」
「年齢分・・・で・・ございますか」
そうか・・なるほど。
では、これは年々増えてゆく・・ということになるわけか・・。
何度も何度も息を吸い込み、端から順に吹き消し作業にとりかかる。
卓上いっぱいに陣取ったパン。・・ぐるりと机の周囲を歩きながら。
一気に吹き消すなど到底無理だ。
なんとか最後に残る火を消しとめ一周し終えた時には、心なしか頭の芯が朦朧としてふらふらである。
杖をもっていなければ、眩暈で完全によろついていただろう。
(確かに・・これが出来るうちは、もう一年は生きながらえる事が出来るという証かもしれぬな・・)
苦行の儀式を終え王妃の嬉しそうな祝福の拍手を受けながら、イムホテップはふとそんな事を思い笑ったのだった。
Fin.
© PLEIADES PALACE
愛の奥宮殿へ