chapter 22
〜 プラクティス 〜
「民・・・・住まい・・・・健康・・・・・天?」
「ではこれはどうだ?」
「えと・・・あんず 池 塩 鉄 ・・・・ルカ ?」
「・・・・なぜそこでルカだ?」
「だ、だって・・・・咄嗟には/// あ、『ルビー』!」
「・・・・・まぁ、よかろう。 次だ。」
王は妃の肩を抱き寄せ、もう片方の手は妃の手のひらに文字を書いていた。
くすぐったそうに笑いながら王妃はそれに答えている。
昼食の後や、午睡のひととき
王と王妃のくつろぐ時間に、ときおりはじまる色々な単語の問答
たわむれのように王が王妃の手のひらに問いを出す。
聞いていると、それはまるで子供が初めて言葉を習っているかのような、たどたどしい取り留めないやりとりだ。
「変ですわね。・・・姫様、神聖文字ならとっくにご習得されていらっしゃるのに」
王の指先での問いに、キャロルがその言葉が分からなくて浮かばないかのような反応をしていることもあるからだ。
そんなことはありはしないほど彼女の語学は流暢だというのに・・・
しかしなにをしているにしても、その時のお二人の様子はこの上なく仲睦まじい。
寄り添って話す姿はそれは楽しげで、また時折王の快活な笑い声が響いたりと、平穏そのものだ。
愛しい妃の手を取り、とにかく愛しげに何かを教えている。
それを笑顔で聞き入っているキャロル王妃の様子から、きっと興味深い異国の事でも話題になっているのだろうと皆は推察していた。
だから通り過ぎる侍女たちも大半の内容が良く分からなくても特に気には止めない。
「外国の言葉でも覚えていらっしゃるのかしらね?」
「・・・・まぁ、似たようなものだろうな。」
「あら、ウナス隊長、あれ、何をしてらっしゃるかご存知なの?」
「・・・・・・。そうだな・・ちょっとした王の遊びさ。」
「???」
遠めに見える二人のやりとり
今はまだほんの初歩だろう。
護衛につきながらウナスはちょっとばかり懐かしく昔を思い出していた。
「王妃様はさすがに覚えが早そうだ。」
「ミヌーエ将軍・・・」
「王の指文字の言葉を読み取り、それを暗号で答える練習か・・・。そういえばそなたは相当下手くそだったな。」
「あ、あの頃は文字自体をを知らなかったんですからしかたないでしょう!!」
「お陰で今はしっかり分かるわけだ。」
「そうですね・・・・・分かりすぎて恥ずかしいんですが・・・」
今はほんの初歩。
解読するにはただ言葉の頭をつなげるだけだ。
これは暗号文の基礎中の基礎。
「犬・・・鳥・・・雫・・・・・泉・・・・」
「ワニ・・・タヌキ・・・・シラサギ・・・モロヘイヤ うふふっ」
「よし。」
これから王と王妃の書簡には一見不可解な文字が羅列されることになるのだろう。
王の指文字や手話の暗号を覚えたら、またそれはそれで色々無言での使い方があるわけで・・・
「使えるに越したことはないですし・・ 役に立つこともあるかもしれないですから・・・」
「そうだな。・・・できれば御二人の平和な睦言だけで使われることを願うばかりだ。」
ミヌーエとウナスは互いに「暗号仲間」の意味に使っている合図(それぞれの手の甲を軽く叩き合わせて)をしながら、笑いながら各自の持ち場の見回りに向かった。
Fin.
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愛の奥宮殿へ