chapter 19
〜 貴女が愛される理由 〜
ある一兵士の王妃遭遇記
じぃ・・っ
見つめられた一兵士はものすごくたじろいだ。
それはそうだろう・・。
・・目前に自分を見つめているのは
「なっ・・なにか御用でございましょうか・・王妃様っ」
誰であるかなど聞かなくてもすぐに分かる。
黄金の髪と青い瞳の持ち主など、他国の子供でも聞けば知っている
このエジプト王国の王妃
世に稀なる高貴な神の娘
そのお方がふと目の前で立ち止まり、他ならぬ『自分』をじっと見つめていたからだ。
(にこっ)
「・・!!!」
とっとっとっとっ
「・・・・・・・・」
な・・何だったんだろう・・・今のは???
にっこりわらって通り過ぎて行かれてしまった。
こちらは訳がわからずおろおろとうろたえるばかりだ。
この宮殿内の警備のお役目になってまだ10日・・
厳しい訓練を経て王宮警護の団員になり、先日配属が決まったところ。
新米兵士としての生活が始まったばかりの出来事であった。
仰天してしばらくそのまま固まっていると、隣の先輩が笑って声をかけてきた。
「おい、しっかりしろよ」
「は、はいっ」
「お前も、ちゃんとこれで『はれて』王宮の兵士なんだからな。」
「はぁ?」
「王妃様がお前の顔を確認されたろ?あれ、ここの奴らは皆全員同じことを経験済みなんだよ」
「全員?・・って『全員』っっ!!」
「そ。おさすがというか・・お見事というか。見慣れない新人が来るとすぐ気づかれる。で、そうやって顔を覚えられるのさ。」
「・・・ってことは・・・ここの兵士の顔、全員覚えていらっしゃるってことですか?」
「らしい。俺も最初は信じられなかったんだけどな。でもな、確かにあの方の記憶力は本物だぞ。」
噂では、兵士だけでなく、王宮に出入りしている人間はほとんど記憶していらっしゃるんじゃないかということらしい。
一度見たら忘れない
それはなかなか出来る事ではない
単純に特技かもしれないが、継続するには常に周りへの意識や覚えようとする努力も絶対必要だ。
「・・・・・すごい」
またこの先輩が言うには、この広い王宮のありとあらゆるところで、何故か『王妃』に遭遇するという。
だから 『どんなところ』 でも警備は怠れないんだと。
「そうやって王妃様が毎日あちこち宮殿中をうろつく・・いや、「ご見聞」されるおかげで年中ファラオのご機嫌が斜めになるんだけどな。でもま、それで下々の俺たちまで覚えてもらえるわけだ。俺たちにとっちゃ、ちゃんと知ってもらえてるってのは、ただそれだけで結構嬉しいもんさ♪ ・・・・あのお方は・・きっと王妃さまでなくても守って差し上げたくなるんだろうな。 だろ?」
「はいっ」
後日、たまたま違う場所の警備に当たっていたその新人兵士を見かけた王妃は(・・正確には、かなり場違いな場所で彼に見つけられた王妃は)、「あら、どうしてここに?」と、明らかに彼の事を分かった上で微笑みかけたのだ。
「・・・・・・・・・・・・王妃様・・(じーん)」
こうしてまた一人、王宮で「王妃様」への忠誠を誓う人間が増えたのでした。
Fin.
愛の奥宮殿へ