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『ある令嬢の日記』 T

Presented by みんみんまま様

 番外編 『悪友』


 番外編 『悪友』                  Top
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【番外編】 みんみんの勝手に妄想イラスト小噺  - 2004/08/24 〜 2004/08/26


「うむ・・・旨いものだな」
「最近、とみに腕が上達してな・・・おかげで助かっておるわ」
「では、例の物は?」
「あまりそういう意味では使わぬのぅ。食してはおるがの」

寛ぐ二人の貴人の前に居並ぶ馳走。
それはこの黒土の主が愛する妃が手ずから料理したもの・・・
机上を並ぶそれはフルコースを十二分に象る。
ふわふわのパンは現代においてのハンバーガーの形を成している。
初めて食す者達は主食と惣菜とが一緒になって味わえるそれにいたく感嘆の世辞をもらす。
真にこの黒土のお妃におかれては料理の腕が上がったようであった――――



過日のある日

「!!」
「えっ!今度は何〜。・・・・ごめん、ちょっと硬かった??」

・・・・少々ではないような。かなり硬いぞ。

手にした杯の中身を口に含み嚥下する。
口には出さずに視線だけを料理人に送る。
しかし、それもやはり優しいものだが。

「何が悪かったのかしら?そんなに硬いなんて」

少し離れていたナフテラが母親宜しく口を挟む。

「あの・・・発酵は何回なさいました?」
「えっと〜1回よ。たたいてこねて、発酵させて成型したんだけど。後は焼くだけよね?」
「・・・・成型した後にもう一回発酵してから焼成しませんと。他国にしられてはなりませんが。そのまま焼かれては、堅すぎるのも仕方がないかと」

おずおずと気まずげに料理法を伝授する。
それを聞いている二人は瞳を合わせ、仲良く揃えて溜息をなしていた。
食事後、政務の間においては例のごとく腹痛を耐えながら裁可を下しているファラオがいるのだった。


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侍医日記


最近、王宮においては腹痛を訴える患者が真に多し。
このままでは、いかに素晴らしい広さを誇る薬園を所持する王宮医局でも薬が払拭する事態となり得る。
如何したものか―――――叡智ある王妃様にご相談を申し上げるとしよう・・・

侍医の相談を受ける王妃。そして黙り込む。
相談者が退室した後も身じろぎもせずに考え込む。かと思えば・・・

「やっぱり、それしかないわ」

パンと手を打つように席を立ち、その後また座り込みパピルスの文に筆を走らせたのだった。

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ある間謀の日記


姫より極秘に命が下った。この手紙をある国に届けるようにと。
極秘に。何度も念を押されるあの方の必死の様相。
届け主を確認するとわたしは自分の正体を知られたのではないかと・・・驚嘆した。
しかし、そうでは無かったようだ。姫君のファラオに知られたくない計画のようでもある。
わたしは姫に暇を告げると喜び勇んで砂漠を駆け抜けることとなった。

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それから後、しばらくして――――
王宮に住む麗しの姫君へと荷物が届く。
果物であった。
掌で転がせる程のぷっくりとした大きさ。
薄い子供の肌を思わせる果皮は空が宵闇に包まれる前に現す夕焼けの色。
よく熟れた香があたりに立ち込める。
送り主は伏せられているが、さりとて危険でもないそれは彼女の手元へと運ばれるにいたる。

そうそう・・・・これこれ。これさえあれば・・・それから、ミノアからも例の物が届いてるし。
さっ!やるわよ〜
自分を叱咤しつつも侍女等に手伝いを要請する。

「河に持っていって洗うのよ。それから綺麗にヘタもとってね・・・」

彼女は何を作ろうとしているのであろうか??


「一体今度は何を始めたのだ?」
「内緒〜〜でも貴方にとってもいいものよ」

今までが今までであるだけに背中に薄ら寒いものが走るファラオ。
それでも、退屈して王宮の外に出られるよりもはるかにましだ。己の身体を挺しても彼女を守りたい。
それは彼女に恋したときからの彼の声明―――願いであった。
何をしているか彼女の行動仔細は不問となった。





月日の過客が通り過ぎ行く・・・
そしてまた王宮の庭園において。

・・・うーん。このエジプトの昼間の日差しなら1日でOKね。
3日もやったら乾燥しすぎちゃう。硬くなりすぎてもねぇ〜。どんなでも美味しいけど。よいしょっと。

葦で作られた筵の上に並べられる果物。重ならぬように広げ、そしてまた広げ返す。
白の指先をその露にて濡らし染めぬきながら・・・・
一つ一つを優しく幾度か返し一夜、夜霧を当てられた。
最後にその果物たちは住処となった壷へと一粒一粒大切に戻されたのだった。



「はい、どうぞ!」

これは?という胡乱な視線をものともせずに更に薦める。

「大丈夫。わたしが作ったのよ。丹精したんだから〜」

・・・・だから口にはしたくないのだが。

彼の人の想いは伝わることなき。唇に愛妃が差し出す果物を受ける。

「!!!!!!!!これは!!何ぞ!!!!」
「あっ、ごめんね。最初に言わないとね。酸っぱかった?身体にいいのよ〜」

水をいれた杯を差し出しながら説明する妃。
あまりの強烈な酸の刺激にうろたえる彼。
しかし、時が過ぎれば不快さはなく、むしろ爽快さが口中にひろがる。

「慣れると美味しいのよ。でも塩分もきついから食べ過ぎないでね」

後年彼女が創作(?)した中で、一番のお気に入りとなった料理の一品。それは―――――

「あのね。梅干っていうの。梅は手に入らないから。ちょっと代用品をね・・・ある所を知っていたものだから・・・・」

彼女は段々言いよどむ。
言い辛い。喋り難い。でも!!

「ヒッタイトから送って頂いたの・・・」

仇敵であった筈だ。最愛の彼女に多大な害を為した相手である。その国に――――!!!
憤怒の空気が辺りを闇色に覆う。
が、彼女も覚悟の上の告白。圧倒される気迫に負けじと尚も言葉を継ぎ足す。

「身体に、お腹にいいから・・だから、貴方の為だから」

自分の為という一文句に急所を衝かれ、するり力が抜け落ちる。
怒りが一点に収束して行く。感じつつ更に畳み込むように彼女の考えを注ぎ込む。

「あのぅ、これを切っ掛けにして国交を取り戻さない・・・?」


さすがにそう突拍子ないことを矢次早に言われてすぐに返答をするわけもいかない。
考えがまとまりやしない。
それでもその梅干しの効用を聞き齧り体験するに及びいたっては、その果物――“杏“の輸出国を無下にすることももはやならず・・・一考の価値がゆらりと浮上していく。
時間をかけながらも正常国交を取り結ぶことに何時しかなったのだった。
細かい理由はさておくも彼女が理由で戦争が起こり、断絶された国交を彼女の働きにより修復せしめたのである。
歴史も修復せしめたであろうか??




兎にも角にも、今宵はその喜びの宴会―――

白銀の客人と夫はすっかり打ち解けて旧来の友人のような関係を築きつつあった。
元々、帝国の頂点に立とうこの二人。
煩悩するのも似通い理解しあえる。
女性の好みも同じであろうか??
愛されるべき彼女は喜色満面厨房に立ち続け平和の使者を、最愛なる夫をもてなすべく・・・料理の腕を揮うのであった。